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狼少女とウェアウルフ / せんせいとわたし

「先生、私幽霊が見えるんです!」
「新しい遊びですか?あまり嘘をつくのは関心しませんね…」



「そのうち、狼少女になってしまいますよ」


狼少女とウェアウルフ



『あの先生の言うことがもっともだと思うわ』
校舎の屋上で空を眺めていると、フェンスの向こう側から顔を出した少女はそう言った。

「なんで信じてもらえないのかなあ、そんなに嘘っぽく見えるかな」
『嘘っていうより、普通は信じないからね』
青から順に落ちてくるグラデーションには雲一つなく、視界に入るにやけた顔とはまさに正反対な清々しさ。ああ素敵。先生のような清涼感。
目の前の少女に目を戻すと、風も無いのに髪や襟がふわふわと揺れ、透けている。背丈は私とそれほど変わらないはずなのに、彼女の目線はもっともっと上から見下ろすものだった。
ううん、やっぱり。
「本当に幽霊見えてるんだけど…」
『それと、忠告。大人をあんまりからかうもんじゃないわ。冗談や嘘ばっかり言ってると、本当に狼少女になって食べられちゃうわよお?』
「嘘じゃないよ、先生大好きだよ!」
『あんなののどこがいいのやら』
「あああああんなのって言わないでー!」

目の前にいるのはその、幽霊本人だ。
この間の学校行事で山登りしたときに迷ってしまって、滑り落ちた絶壁の地で途方に暮れていたところを助けてくれた。
本人は助けたつもりなんてないと言い張っているけれど…。

それからだ。たまにこの娘が姿を見せるようになったのは。

「でも、ミサキちゃん地縛霊なんじゃなかったっけ?」
地に縛られていて、動けない…とは本人の談だけれど、それならなんでこんなに。
『憑きまとってるわけじゃないわよ』
「顔に出てたかな」
『わかりやすい顔してるもの、あたしじゃなくてもわかるわよ』
「………わかった!私の守護霊になってくれたんでしょ!?」
『はあ!?なるわけないでしょ!あたしまた死にたくない!』
「……う、うん……?」

なんだか物騒な単語が聞こえた気がする。どういう意味、と言う前に話は横へ横へ。

『ふん、とにかく……。嘘つきだって、気味悪く思われたくないならあんまり言わないことね』
ただですら人は信じてくれない、他人なんてもっとそう。
狼少女にすらなれなかった娘はそう言った。

「そう、かな…、でも、信じることって大事だと思うな」
 現状はなかなか信じてもらえないと思うけど、と付け加え。
「もし友達がそう言い出したら、私は信じたいな……って、こういう話じゃなくてもそう思うし、なんでも疑ってかかったら、それは苦しいよ」
相手の全てを信じたいだなんて思ってるわけじゃなくて。
面白いことを信じて生きたいのもある。まともに心に受けるのは筋トレみたいに思えるときもある。
でもそれだけ鍛えらればまたいいよね。良い事だよね。

『好きな方をやるといいわ。でも信じすぎて馬鹿を見ないようにね』
それももっとも。
機嫌を悪くしたのか、ぷいと向けられた背中は遠くて薄い。両方に二つ結びにしたクセっ毛が踊るんだ。
何を考えているのかはわからない。いわゆるツンデレなのかもしれない。


「ところで、それって誰の話なの?」
『こんなのよくある話よ』

ご機嫌が斜めを向きすぎて倒れてしまったのか、こちらを見もせず消えてしまった。
「ミサキちゃん、後で羊羹あげるから……」
仏壇に添えればいいかな、でも彼女の仏壇ってどこだ。
あの岬にはできればあんまり行きたくないところだし…。
あ、お線香用意した方がいいかな、青雲のバイオレットは煙が少ないし良いよ。うん。
あと、崩れた片方の髪を直してあげたいな、リボンを………



「誰と話してたんですか」

「うわあああああ!!!」
背後から突然声をかけられて心臓が飛び出そうになった。
穏やかな声、大好きな声、二重の意味で心が踊るのだ。
「せ、……せ…………あの、せ…」
必死に飲み込もうとしているけれど、傍から見たら餌を求める金魚と変わらないかもしれない。
風に撫でられて崩れた頭が恥ずかしい、上にこれだもの。
ああ、なんて事。こんなことならもっと鏡を見ておけばよかったのに!

「ああ、すみません驚かせてしまって…。そろそろ本鈴が鳴りますが、どうも姿が見えなかったので」
「ほ、本当ですか!先生大好き!アイラブユーアイウォンチュー!」
「授業であまり欠席者を出したくないだけです」
ほら、皆勤賞狙ってるんでしょう。と肩を押されながら階段を下りる。
「先に行って着席してるんですよ」
「はあーい!」
勢いよく駆け出しながら笑みを抑える。こんな些細なことでも幸せです。
「先生、教室でまた会いましょうね!」
「廊下は走らない」
「はーい!」



見えないはず、の視線に当てられながら考えてみる。
地に縛られている…はず、だけどもそれを連れていく程の何かがあの娘にはあるのだろうか。
『まさかねえ…』

信じる物は救われる。何をかっていうとそれは金銭だとか心だとか。
赤頭巾は疑うことを知らなくて食べられてしまったし、あわれ子羊は末子を残して腹の中へ。
メルヘンの世界でなら救われているけれど、警告忠告教訓を知らない娘は強いわけじゃなくて愚かなだけ。

目が合った男にはこちらは見えていないはず。なのにこちらの目を射抜く視線は鋭い。


「……幽霊、ね…………」


『ああ、こわいこわい。
 ね、先生。あたしも貴方のこと嫌いよ』

だってあたしが寂しいから、なんて口が裂けても言わない。



* * *
* * *



『ところでキミって友達いないの?』
「い、いるよ!つるんでないだけで…」
『ふーん』
「まことちゃんって言うの。ほらあそこ歩いてる」
『あーあの……校則違反常習者?』
「なんでわかったの!?すごい、やっぱり幽霊はこっくりさんみたいになんでも知ってるんだ!?先生が私のこと好きかどうかも占える!?」
『それはお狐様じゃないと無理ねー』

おしまい






* * *
* * *

アキヲ先生に恋するユーザちゃんは霊感少女でミサキチともお話しちゃうよってお話。
男は狼なのよ気をつけなさいー

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