(※途中で終わっているSSです)
「ライラクラム様、今日のデザートは極上のチョコレートをご用意いたしました!」
「うむ」
「ライラクラム様、本日も麗しゅうございます。
こちら、年代物のワインです。是非お召し上がりになってください!」
「うむ」
「ライラクラム様、何か欲しいものはございますか?」
「今は特に何も」
「そうですか。ではライラクラム様、ご飯にする?お風呂にする?それとも……」
不確定要素XXXかくも、人間とはこんなに扱い難いものだったか。
肌寒い感覚を覚える12月。
街頭は金色銀花煌びやかな電飾で飾られ、彩りが眩しい。
――こんなもので塗りたくっても影は消えやしないのに。
特に挨拶もせずに家へ戻ると、迎え出る人影が一つ。
「ご主人様、おかえりなさいませ」
「……ご主人様はやめろと言っているだろう」
暗闇から燭台を持って現れた「それ」は、慣れたように頭を垂れた。
……ほんの気紛れで選んでしまった幸い、というのだろうか。
死にぞこないを見つけた出来心。
ヒトを守るのはやはりヒトで無ければ面白味が無い。
長い人生、ヒトと呼ぶにはかけ離れすぎているが。
「街は賛美歌で溢れていて、お疲れでしょう」
わたしはヒトですから、と付け加えながらそれは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「では、ライラクラム様」
「うむ」
くるり、と一回転し、愛嬌のある笑顔をもう一度。
今度は満開に開き零れそうなほどに。
「と、いうことで!本日はお祭でございます!」
はて、と記憶にない。
こいつはよく突拍子も無いことでお祝いをしたがるから、妙なものだ。
脱人間記念日一ヶ月だとか、二人の出会いの記念日二ヶ月だとか、よく思いつくものだと感心する。
日本人は祝い事好きだというが、正にそれを体現したかのようだ。
「おまえの誕生日か?」
「ライラクラム様、私はとても嬉しいのです!
あの日あの時お声をかけて頂いた時の煌びやかな瞳、凛とした声、月光を掬い取ったような牙!
どれをとってももう運命だと!そう考えているのです!ああ、ああ!
一生お傍におります、仕えさせてください、それが私の喜びなのです!」
「話を聞け」
ヴァンパイアは狐を飼うのだとは前に言った覚えがあるが、これではまるで犬ではないか。と呆れてしまう。
これが自分の眷属か。なんとも情けない。
―――そうとも、これは拾ったときからこうだ。
別に魅了だとか洗脳だとか、そういった事はしていないハズ。だというのに。
見ようによっては可愛いものだが、これでは張り合いも何もあったものではない。
「おいしいシャンパンをご用意しております、あっ、これは私用ですね。
ライラクラム様にはワインと、ウイスキーもありますが飲みますか?
果物…チェリーやストリベリーもございます、いかがなさいますか?」
ずいずいと目を輝かせながら身を寄せてくるも、ものすごい気迫である。
しかし、ただ。しかしだ。
「つまらないな」
「はい?」
「時に、おまえ。自分の身分を忘れたわけではあるまいな。
して?世はどこぞの宗教のメシアの生誕祭だとか。それか?
普通は家族や友人、はては恋人とパーティをするのではないか?」
「ですから、このように準備をしてお待ちしておりました!」
どっかりと椅子に腰掛けながら見やると、テーブルには豪華な食事や飾りが備えられていた。
これまた、いつもだって大層なご馳走なのに、それを更に三重に、四重にも丁寧にしたような度合いだ。
「いや、そうではない。食事は不要だ。
それに、おまえには友人というものはいないのか?」
「それはもう済ませてきました。今はもうこんな時間ですよ」
シー、と指を二本、唇に添える。
ちょうど鐘の音が鳴り響く時だった。
「お父様とお母様は、もう寝てしまいました」
「普通の人間は寝る時間だ」
「私はですね、ふふ。なぜでしょう。逆に元気になってくる時間帯です」
* * *
* * *
ユーザちゃんと
ライラクラム様のクリスマス。
百合っ子というかライラクラム様にやたら懐いていたらかわいいなと思って
途中まで書いたのを発掘したのでおいておきます。