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カサイノニシビ - からかさ幽霊+小説家(+?)

さあ、脅かしてやろう。ちょっとした好奇心で暇は殺せる。
散歩がてら、と目についた家屋へと上がり込む。
何処へとも無い散歩だ。何も考えずに歩いてきたせいで、四辻からの道順も頭に残っていない。
大胆にも軒先へと進んだ足だったが、衣笠ははた、と歩みを止めた。


カサイノニシビ




「あっ、わっ、が、くせいさん!あのですね!私はですね、決して怪しいものでは!なくて!ですね!!」

紙やら本やらが所狭しとひしめきあう部屋で男がぼんやりしていたのだった。
彼はふーと溜息を吐くとこちらを一瞥し、……これである。
「わ、すみません。僕もちょっと通りかかっただけで…」
嘘をつけ、明らかに目的を持っての侵入だったくせに。ヨコシマな。
相手が慌てているのを良い事にして、そそくさと去ろうとした。

「私が見えるんですか?!」

そちらこそ、と喉から出かけた尾っぽを掴めて良かった。
何かはわからないが、”そういう人”なのだろう。驚いたのはこっちの方だ。
「ええと……」
「今いる私は、映像なんですよ。残像のような……それをゴーストって言うんですけど。月との交信と、同じ要領でやっていたんです」
「月、ですか」
なんだか遠い話だな、と衣笠は思った。
ずっとずっと遠い先の話だった。ロケットが飛んだとか、月に着陸しただとか、宇宙人がいるだとか。
エスエフエックスの世界。科学的。自分とは程遠い。
「はい、見えますね。ボクからすればあなたは普通の人間みたいだ」
「人間ですよ。……なんて、信じ難いかもしれないですけど」

それから少し、その奇妙な存在と取り留めの無い話をした。
天気の話から始まって、紙に変わる電子の本があるだとか、人工知能がどうだとか、この家には小説家が住んでいるだとか。
「こういう話に興味があったらまた来なさい」
と言われたが、曖昧に笑って流してしまった。

もう少し素直になれたらな。
と。受け入れがたい現実を、かぶりを振って打ち消すんだ。
真っ赤な西日は地獄を連想する。河川敷を歩くと、賽の歌が聞こえてくるようだ。

二つや、三つや、四つ五つ………





一方、路川榮太郎は公園で紙芝居を眺めていた。

***










* * *

* * *



からかさ幽霊小説家、そしてこれを見ているあなた。
月を見ている、あなた。

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