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ある女性の話。
彼女の名前は、宝石の名前。
とても上等なざくろ石の名前。
それは彼女のふわりとした赤毛を見て母親がつけた名前。
彼女はそれをえらく気に入り、自分の名前をとても大切に扱いました。
彼女は癖のついた赤毛とやわらかな白い肌に少しのそばかす、紫水晶のような瞳をもった女性でした。
彼女は物心ついたころから修道院に通い、一人前になってからはそこで暮らすようになりました。
修道院での地位は少し高く、皆よりは少し偉かったのでした。
ある日、彼女は一人の男性との運命の出会いを果たします。
そのことについて彼女はあまり人には深く話そうとしないのですが、
彼女は彼のことを深く愛し、彼もまた彼女のことを深く愛したといいます。
しかし、彼の身分は彼女に釣り合うそれではなかったため、周りからはひどく反対をうけました。
そのことを悲観した2人はどこか遠くへ行こうと決心しました。
どこか遠く。自分達のことを誰も知らない場所に行こうと。
しかし、彼と共に旅立つはずだった彼女は、こちらの世界に残されてしまったのです。
その後、彼らの駆け落ちのことは修道院の中以外には広がることはありませんでしたが、
彼女は同僚から避けられるようになっていきました。
元々一人で行動することの多かった彼女には、それはあまり苦にはなりませんでしたが、
愛する彼が亡くなってしまったことは、彼女の心に大きな穴を開けました。
彼の愛した丘にいる時間が長くなりました。
自分は彼と一緒に一度死んだのだと、喪服を着るようになりました。
寄り添えない彼の身体のかわりに、墓石を建てました。
自らの入る分を空けて、自分の墓石も隣に建てました。
季節は冬になり、丘には雪が降り積もりました。
彼女は幼い時母親に貰ったマフラーを首に巻き、何気なく空を見上げました。
まるで宝石をばら撒いたような美しい星空に、ため息がこぼれました。
ふと、彼が死んでから一度も流したことのない涙が頬を伝ってこぼれました。
この丘を彼が愛した理由が初めてわかったような気がしたのです。
ああ、綺麗だな。
彼女は歯を食いしばりながらようやく出た言葉を繰り返し呟いて、涙が出尽くしてしまうまで泣きました。
彼が死んでしまったことがまた、心に重くのしかかってきたのです。
私はまたこの丘に来よう。明日も、あさっても、そのまた次の日も。
ここは彼の愛した場所。彼が慈しんだ場所なのですから。
丘はただ黙って街を見下していた。
囁きもせず、また、嘆きもせず。
きらきらと輝く星を見つめていた。
彼女は自分の名前がとても好きでした。
彼の呼んでくれる、「ガーネット」という名前が、とてもとても好きでした。
ガーネットは、生涯独身を貫き通したといいます。
それは、彼女が愛した、彼への愛の証だったのでしょう。
あなたが会っている彼女は、あるいは、もう死んでいるのかもしれない。
それを判断する術はもう残されてはいない。
ただ一つ言えることは、彼女はかつて確かにそこに存在していた、神に愛された女性だったのだということだ。
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